2017年秋に会社を辞め、世界一周の旅に出た写真家・ライターの佐田真人さん。「世界を旅したい」という憧れを現実にするための、最初の一歩を踏み出してから約5か月。東南アジア一周を終えたいま、佐田さんは何を思うのでしょうか。
憧れが現実に変わったとき、「あ、こんなもんだったんだな」と気持ちが冷めてしまう瞬間がある。
でもそれは決してネガティブなものじゃなかったんだ、と東南アジアを一周して改めて思う。
カンボジアから国境を越えてタイへ。馴染みあるコンビニやカフェ、地下鉄を見たとき、日本とさほど変わらない情景に懐かしさを感じた。
東南アジア一周を終えたタイミングで、タイから一時帰国することにした。しばしの休憩をとって、ふたたび日本を発つ予定だ。
久しぶりに日本へ帰れることが確信に変わった瞬間、全身の力がスーッと抜けていくような気がした。機内にひびく日本語をBGMに、タイの陸が小さくなる様子を眺めながら、東南アジアの旅を振り返る。
もともとやってみたかった「世界を旅しながら働く」ことを、憧れのまま終わらせないために旅へ出た。日本でサラリーマンとして働いてきた自分が、世界という舞台に立ったとき、個人としても生きていけるのか試したくなったのだ。
旅先で出会ったひとたちの人生に触れる機会が何度かあった。そして彼らもまた、夢と現実の間でもがいているように見えた。
この二つのギャップを埋めていくことは、かなり骨の折れる道のりだ。それでも彼らが充実しているように見えたのは、憧れが憧れのまま風化してしまうことへの恐れや、それを現実にすることの価値を知っていたからだと思う。
そして、僕にとっての憧れを現実にするための一歩は、やはり「旅」なのかもしれない、と感じた。好きなことを生きる術にしたいのか、やってみないことには分からない。自分にとって、それが「旅」だったのだ。
東南アジア一周を終えた直後は、どこか冷めた気持ちだった。むかし憧れた遠い異国の地は、驚くほど身近な存在になっていた。だけどようやく現実へと昇華できた実感が湧き、妙に嬉しかった。
そしてそれは次なる挑戦へのはじまりでもある。
機内の明かりが点き、「まもなく日本着陸」とのアナウンスがひびく。雲の中で輝く光が見えた頃には、すでに次の旅路を考えていた。
非公開: 世界を旅する【今日の一枚】の記事一覧はこちら
- 【今日の一枚】“What’s the story?”という挨拶と僕の物語|アイルランド
- 【今日の一枚】旅のはじまりはいつも孤独で億劫だ。それでも僕は、世界へ旅立った|タイ・チェンマイ
- 【今日の一枚】暮らしをとおして見えてきた、北欧生まれのデザインの魅力|フィンランド
- 【今日の一枚】何者にもなれない今だからこそ、見える景色がきっとある|ベトナム・ホイアン
- 【今日の一枚】ファッションデザイナーと暮らして学んだ、物との向き合い方|ドイツ・ベルリン
- 【今日の一枚】「自分とは違う」と線を引くよりも大切にしたいことが、ここにあった|カンボジア・シェムリアップ
- 【今日の一枚】旅の終着地点、僕が一番行きたかった建築|ドイツ・ケルン
- 【今日の一枚】いつだって人生が動き出すきっかけは、小さな一歩|タイ・バンコク
- 【今日の一枚】人はなぜこの地の虜になるのか。世界の底と呼ばれた街の魅力|インド・バラナシ
- 【今日の一枚】ささいな出会いの一つひとつが旅をかたちづくる|インド・バラナシ